プロローグ (1) (2)

第一章 人生の終わり
(1)2013年2月25日 早朝
(2)夢の中で・・・
(3)朝起きると死んでいました。
(4)死神?

第一章 人生の終わり

5 死んでも死なない?

 

「はい。着きましたよ。目を開けて」

レイが、目を閉じてすぐに、そう言ったので驚いた。

「え?もう? 一瞬じゃない? まだ、私の体、到着してないんじゃない? 」

そう思いながら目を開けると、私たちは、いつの間にか霊安室から自宅の仏壇の前に移動して立っていた・・・。

「あ、あれ?本当に着いてる?この一瞬で?」

私がそうつぶやくと、

「あ、私たちは、いつでもどこにでも存在できますので、移動は一瞬です。なので、便利ですよ。」

レイがそう解説してくれた。

そして、この一瞬で移動したのに、家にはもう私の体は到着し、仏壇の前に寝かされていた。

「私の体も到着してるじゃない。さっき病院を出たばかりなのに、どうして?」

「それは、あなたの体が到着した後の自宅に移動したからです。私たちには、時間も空間も関係ありません。ただ、その瞬間に存在することを意識するだけでいいのです。」

私は、レイが言っていることを何一つ理解することはできなかった。

よくわからないけれど、とにかく一度家に帰ってくることができて安心した。

この家ともちゃんとお別れをしておきたかったから。

きっと、天国に行けば、しばらく帰ってこれないと思うから。

夫も娘たちも、きっとそう思って、私の体を一旦自宅へ連れて帰ってくれたのだと思う。

なんだか、そう思うとまた悲しくなってきた。

きっと、家族ともこれから会えなくなるだろう。

このガイドについて行ったら、きっと、もう私の人生は終わるんだ。

だとしたら、最後にちゃんと家族にも家にもお別れをしておきたいと思った。

夫は、私が寝かされている仏間で私のすぐそばに一緒にいてくれて、

次から次にやって来てくださるお客様に対応してくれていた。

何度も何度も、今朝の出来事を話さなければならないのは辛いだろうに、ちゃんと説明している。

駆けつけてくださる人たちは、みんな親しい人たちばかりだった。

びっくりさせてしまったな。ちょっと申し訳なく思った。

突然のことだったのに、もうこんなに落ち着いている自分にびっくりする。

私は、自分の死を受け入れたくなかったけれど、受け入れざるを得なかった。

死んでしまったことが変えられないのであれば、もうそれを受け入れて前に進むしかない。

死んでも私はなぜか、消えずにここにいる。

わからないことばかりだから混乱はしているけど、でも、意外と冷静な私がいた。

お別れしなきゃな。みんなと。それから、この家とも。

そう思って、しばらく仏間でみんなの顔を見た後、私はキッチンへ行った。

 

キッチン。

今は、みんながここでバタバタとお客様のためにお茶を用意したり、食事を用意したりしている。

ついつい私も手伝いたくなるけど、私には、もうそれはできない。

ここで毎日食事を作り、家族みんなで食事をした。

娘たちが幼い頃は、必ずみんなが揃ってから「いただきます」をしたな。

テレビを消して、家族団欒、一日の出来事を話すのが日課だった。

いつも長女と次女が話の取り合いをした。大概、話が面白いのは次女だった。

次女は、笑いを誘い、みんなで大笑いした。

すると長女も負けじと話し出す。

娘たちが大きくなると、家族団欒も少なくなって、最近では、夫と姑との寂しい食卓だった。

でも、今考えるとそれも恋しい。もう、一緒に食事もできないんだな。

 

私は、振り返ってリビングを見た。

リビングでは、誰も見ていないテレビがつけっぱなしになっている。

大好きなリビング。ここにも家族の思い出がいっぱいだ。

よく時代劇を見たな。水戸黄門は、家族みんな大好きだった。それに・・・

 

私が、大好きなリビングで、思い出に浸り目を閉じてお別れをしていると、

さっきから後ろをついてきては、何か言いたそうにしていたレイが、

言いにくそうに話しかけてきた。

 

「あのー。懐かしい思い出に浸っているところすみません。」

大切な時間を過ごしているのに、レイが話しかけてきたので、

私はもう、向こうへ行く時間が来たのかとドキッとした。

「もしかして、もう時間? まだもう少しお別れをしたいのだけれど・・・」

「あ、いえ、時間はたっぷりあるので大丈夫なんですけど、

先ほどから見ていましたら、あなたがどうやら最後のお別れをしているようですので、

ちょっと伝えておこうと思いまして。」

「そうよ。だって、天国へ行ったらもうここへは戻って来れないのでしょう?

だから、最後の時間を過ごしているんだけど。

大切な時間だから、できればそっとしておいて欲しいな。」

「それが・・・、このタイミングで誠に言いにくいのですが・・・、

実は、これが最後・・・ではないので、それをお伝えしておかなきゃと思いまして。」

「・・・は? どういうこと?」

「は、はい。えっと、あの、生きてる方はみなさん、誤解されてるんですが、

あなたは、いつでもここには戻ってこれますので。

あなたが望めば、いつでも帰ってこれるんです。ここへ」

「え?」

私は、また頭が混乱して思考停止してしまった。

このガイドは、また訳の分からないことを言い出した・・・。

「・・・えっと、これから三途の川を渡るんだよね。

それで、黄泉の国とかいうところに行くんでしょ?

そこに行ったら、成仏するからお盆にしか戻ってこれないんだよね?」

「えっと、それもちょっと違うんですよねー。

ま、おいおい、説明しますので。

ただ言えるのは、体がなくなっただけで、その分、色々と制限がなくなり自由になった、ということです。」

「じ、自由に? どこへでもいけるということ?」

「あ、はい。あなたがこの場所にこだわらなければ、世界中どこへでもいけますし、

言ってしまえば、どの過去にも、どの未来にも、どの人生にも行くことができます。

これについては、わかりにくいと思いますので、落ち着いてから少しずつご案内しますね。」

はあ??????? 何なの、この人! 何を言っているんだろう!

もう!! 何もかもが、聞いていたことと違うから、訳がわからない!

私は、どんどんイライラしてきた。

 

これまで聞いていたこと、信じていたことと全く違う世界じゃない!

何だったんだ!今までのは!と、怒りが湧いて来たのだ。

 

「あの、一つ聞いてもいい?」

私は、イライラついでに、ずっと思っていたことを聞いてみることにした。

「はい。何なりと」

「今、私、まだ生きてるよね。体はないけど。これって、どういうこと?」

「はい。一言でいうと、体の死はありますが、あなたという存在、エネルギー、意識は死なない、ということです。

このまま、生き続けます。存在し続けます。」

「住む世界が変わるだけってこと?」

「うーん。そうとも言えるし、そうとも言えないし。

同じ世界には生きることができるのですが、周波数が違うから、

みんながあなたを受信できないという感じです。

だから、あなたは存在しているのに、

大切な家族には、姿が見えないし、声が聞こえないんです。」

「それって、辛くない? かえって・・・。」

「そうですかね。でも、体にいる時よりもずっと側で、ずっとずっと見守ることができますよ。

一緒に寄り添うことはできますよ。

触れることはできないけれど、時々意識が繋がることがあるのです。

周波数が同調することがあるんですね。

そんな時に、きっと大切な家族は、あなたの存在を感じるはずです。

だから、あなたもあなたの家族も、一人じゃないんですよ。」

死んだら手の届かない、ずっと遠くに行っちゃうものだと思っていた。

もう二度と会えないと思っていた。

でも、そうじゃないらしい。ずっとそばにいることができるのだ。

「ずっと、そばにいるとかって、それって成仏できてない、ってことではないの?

私がそばにいることで、家族が不幸になるなんてことはない?

ほら、知らないうちに、エネルギーを吸い取っちゃっているとか。

不幸を呼んじゃっているとか・・・。」

「あなたが、家族を恨んでいるとするなら、それもあるかもしれませんが、

あなたは、家族を愛しているのでしょう?

それなら、その愛がちゃんと届きますから。だから、大丈夫ですよ。

成仏できない、というのは、何かに執着して、意識がそこから離れられないことなんです。

あなたには、そうなってほしくないので、私は、あなたを導きに来ました。

これからいろんなところへあなたを案内します。

そこで、この人生に残してきた執着を手放してもらえたら、本当の意味であなたは自由になりますから。

それが、お坊さんの言うところの成仏です。」

「そう、そういうこと・・・。それじゃあ、自由になって見守ることができるのね。」

「はい。その方が、きっとあなたにとっても、残された家族にとっても幸せなことです。」

彼が言っていることは、これまで聞いていたこととは、全く違うことだから受け入れ難いこともある。

でも、誠実そうだし、死んでまで騙してくる人なんて、とっくの昔に地獄に落ちているだろうと思ったので、

私は素直にこの年下のレイという青年を信じてみることにした。

「それで、私は、これからどうしたらいい? できれば、自分のお葬式には、参列したいんだけど。」

「そうですか。やっぱりそうですよね。ほとんどの方がそうおっしゃいます。

では、ちょっとした未来になりますが、お葬式に先回りしてみましょう。」

「え。今家に帰って来たばかりだから、明日が通夜で、お葬式は、明後日なんだけど」

「はい、分かっています。でも、先ほども言いましたとおり、

私たちの世界では、時間というのは関係がないのです。

現在・過去・未来は同時に存在していますので、

目を閉じてひらけば、明後日のお葬式の日に存在できます。」

「でも、できるだけ、一緒にいたいんだけど。まだ、お別れしたくないから。」

「ですから、いつでも戻ってこれますから。

これから、色々と案内することがありますので、全部案内が終わったら、

また、ここに戻って来ましょう。」

「・・・なんか、言ってることがまだ全然わからないんだけど、

そんなことができるのなら、もう、お任せしようかな。」

「ありがとうございます。そうしてもらえると助かります。

では、明後日のお葬式の日に行ってみますね。

目を閉じてください。私が声をかけたら、目を開けてくださいね。」

私は、私の体のそばでうなだれる夫と駆けつけてくれた友達、

忙しく動き回る娘たちと妹たちに後ろ髪を引かれながら、静かに目を閉じた。