命の約束 第三章 戦いの終わり(2)傷だらけの木

スピリットファースト

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第一章 人生の終わり
(1)2013年2月25日 早朝
(2)夢の中で・・・
(3)朝起きると死んでいました。
(4)死神?
(5)死んでも死なない?
(6)葬式の日
(7)生まれ変わっても一緒になりましょう

第二章 本当の終活
(1)神様って本当にいるの?
(2)運命の地図
3)生まれる前に決めてきたこと
(4)運命の地図が教えてくれること
(5)自分の最期を選択する
(6)地図を移行するチャンス
(7)愛の奇跡

第三章 戦いの終わり
(1)憎しみを引き受けてくれた人

第三章 戦いの終わり

2 傷だらけの木

 

「はい。着きましたよ。目を開けてください。」

 

私は、恐る恐る目を開けた。そこは、広い広い緑の草原だった。

まるで、いつも夢の中に出てくるあの二人の叔母と再会した草原のようだったが、

景色はだいぶ違っていて私の草原ではないことはなんとなく分かった。

草原には、少し霧がかかっていて薄暗く、空を見上げると分厚い雲で太陽が隠れている。

だから暗いのか・・・。それに少し肌寒かった。

 

「それじゃあ、ちょっと歩きましょうか。」

レイはそう言って私の前を歩き出したので、私はその後に続いた。草原は果てしなく続いている。

「ここはどこ?」

「ここは、彼女の心の草原です。同じような心の草原は、あなたの中にもありましたよね?

人は誰しもこの心の草原をハートの中に持っています。

ここは比較的安全な領域です。誰にも攻めいられることのない安心できる場所です。」

「そんな安心できる安全な場所なのに、なぜ、こんなに薄暗くて寒いの? 」

「それは彼女は今、死に直面しているからです。

不安と恐れが分厚い雲になって太陽を隠してしまっているのです。

でも、死に直面していなくても、不安と恐れの中に生きている人は、みんなこんな感じです。

なかなか心が晴れない。安全な場所なのに、安心できないんですね。

それがなぜかをこれから知ってもらおうと思っています。」

 

私は、レイがいっている意味がよくわからなかったけれど、とりあえずなにも言わずについていくことにした。

 

しばらく歩くと、丘の上に一本の木が見えてきた。

そういえば、私の草原にも真っ直ぐに伸びた大きな木があったな。

でも、この草原の木は、私の草原の木とは全く違っていた。どうやら私たちはその木を目指しているらしい。

 

丘を登り、やっとその木の前までやってきた。

背が低い木で、幹も枝も曲がりに曲がって、変な格好でバランスを取っているようだった。

枯葉が一枚、落ちまいと一生懸命枝にしがみついている。

 

木を目の前にして、レイが静かに話し出した。

 

「これが、彼女の自我の木です。」

「彼女の自我の木・・・」

「そう。この人生での彼女が作り上げてきたアイデンティティの木です。

彼女のキャラクターを表わしています。

じっくりと向き合ってみてください。どんな感じがしますか?

何か、伝わってくるものがありますか?」

 

私は、木の正面に立ち、よじれた木に向き合ってみた。

その幹は、ちょうど両手で抱き抱えられるくらいの太さで、腰が曲がった老人のように幹が曲がっている。

バランスを取るために枝は左右上下に大きく伸び、片方の枝は、地面に着きそうなくらいだった。

根っこが太くて大地にしっかりと踏ん張っているから、立っていられるのだと思う。

 

ふと、幹に目を向けると傷が目に入った。

よく見ると、小さな傷、大きな傷、深い傷があちらこちらにあって、痛々しい。

 

「なぜ? なぜこんなに、傷だらけなの?これって、彼女だけ?」

思わずレイに聞いた。本当に、上から下まで、傷だらけだった。

 

「みんな、こんなものです。

中には、枝が折れたり、大きな穴が開いたり、幹が倒れている人もいます。

みんなみんな、傷だらけなんです。きっとあなたの木も。」

私は、無残にも傷つけられた木を見て、胸が苦しくなった。

 

「こんなに傷ついて・・・。痛かったろうに。

いったい誰がこんな酷いことを・・・。も、もしかして、私のせい?」

すると、レイは首を横に振って、信じられないことを口にした。

「違いますよ。それはあなたがつけた傷じゃない。それは、彼女が自分でつけた傷なんです。」

「え?自分で???」

私は、絶句した。

「そうです。その傷は、彼女が自分でつけた傷なんです。

そして、人はみんな彼女と同じように自分で自分を傷つけています。それはなぜかと言うと・・・。」

レイは、これまでに見たこともない悲しい顔で続けた。

「人は、長い間、戦うことで生き延びてきました。生きることは、戦うことでした。大昔から・・・。

何かを守るために戦い、何かを得るために戦ってきました。

それが食べ物だった時もあれば、土地や領地だった時もありました。権力やお金や名誉のこともあったんです。

生きるため、生き残るためには、戦わなければならない時代があって、

国と国、民族と民族、隣人同士、男と女、親と子どもで戦い続け、悲劇は続きました。

長い歴史の中で、殺し合いもたくさんしてきました。

その痛みは、子々孫々伝わるんです。DNAにしっかりと刻まれて遺伝していきます。

もう、戦う必要はない時代になっても、戦うDNAも守るDNAも、そして痛みのDNAも残っているから、

人は、まだ生きるために戦い続けています。

 

彼女は、そんな時代を必死に戦いながら生き抜いてきた人です。

家族を守るために戦い、家族を養うために戦い、自分が生き延びるために戦ってきました。

戦えば、傷つけあいますよね?

誰かに傷つけられ、誰かを傷つける。無傷ではいられない。

そんな時代を、彼女は、生き抜いてきたんです。

彼女だけではありません。

そういう先人たちのおかげで今の時代があるのですが、

その戦いの中で育ってきた子孫もまた、今なお、戦いながら生きています。」

「時代は変わり、もう戦わなくてもいい時代になったのに、

戦うDNAが残っているから、今でもみんな、

生きていくためのお金を得るため、欲しいものを手に入れるために戦い、

家族を養うために戦い、信頼を勝ち取るために戦っています。

 

戦う相手がいなくなったら、今度は、自分自身と戦うんです。

自分の間違い、自分の弱点、自分の不得意なこと、持っていないもの、邪悪な心、ネガティブな感情、

そんな自分と戦いながら、『もっとこうならなければ』『もっとこれができなければ』『もっと手に入れなければ』と自分にむちを打って生きています。

 

もう、戦う時代、競い合う時代は終わって、

これからは、分かち合い、共創する時代になったのに、ずっと戦って傷つけあっているんです。」

 

私は、彼女とのことを思い返してみた。

たしかに、彼女も私も、常に何かと戦ってきたように思う。

生活するためのお金を得るために、女ながらに社会と戦っていたような気がする。

私は自分への信頼を勝ち取るために、職場でも戦い、自分自身とも戦って、

結婚してからも社会の中で戦い続けた。そうか、彼女もずっとそうだったのか・・・。

 

「私も彼女と同じように、いつも戦っていたような気がする」

「あなただけでなく、みんなそうなんじゃないでしょうか。

でも、それが悪いんじゃないんです。

ずっと誰かが戦ってくれたから、守られて生き抜くことができたのだから、

戦うことが悪いことだって言いたいんじゃないんです。問題はその先にあります。」

 

レイは続けた。

「みんな、そうやって、生きることは戦うことだ、

生き残るためには、戦わなければならないし、何かを手に入れるには、戦わなければならない、って思い込んでいるんです。

人は、その戦いの中でたくさん傷つき、同時にたくさんの人を傷つけてきました。

だから、ほとんどの人の無意識の領域には生きることに対して、

または、欲しいものを手にすることに対して罪悪感が眠っているんです。」

「その罪悪感が自分自身を苦しめます。

無意識の領域では、生きること、望むものを手に入れることは、

誰かを傷つけて戦いに勝ったということだと認識されているから、

いい人ほど、そこに罪悪感が生まれるんです。

その罪悪感が、望むものを遠ざけたり、自分を苦しめる状況を作ったり、自分を否定する環境を作ったり、

自分を罰するために、自分を傷つける人をわざわざ引き寄せたりして、

戦いに勝って生き残った自分を責めるような現実を作り出します。

恐ろしいことに、無意識でそうしているんです。

本当は、そんなことする必要ないのに、そうしちゃうんです。

戦いのDNAは、そんな罪悪感として子々孫々受け継がれます。」

「だから、平和な世の中になってもなお、みんな幸せになることをこれでもか!!っていうくらい、拒み続けるのです。

頭では、幸せになりたい! お金持ちになりたい!と言いながら、

なかなか実現しないのは、無意識の中にそういう罪悪感が眠っているからなのです。

それで、わざわざ不幸を選んでいる人がたくさんいるんです。

本当は、仲良くしたいのに、素直になれず意地悪をしてしまう人がいるんです。

生きることへの罪悪感があると、だれも責めていないのに、責められたように感じて孤立します。

自分なんか、ここにいない方がみんな幸せなんじゃないかと自分の存在を否定するから、

周りの人に自分をいじめさせこともあります。

天が与えているものを、そんなもの受け取る資格、私にはない。と

自分の価値をどんどん地に落として与えられているものを受け取れない人もたくさんいます。

それは、豊かさだったり、愛だったり、奇跡だったりするのですが、

ことごとく受け取り拒否してしまうのです。

それで自分を幸せからどんどん遠ざけていきます。

そしてそれは、たくさんの恐れを心の中に作り出します。

太陽を隠してしまうくらいの分厚い恐れの雲です。

それが、罪悪感の怖いところなんです。

罪悪感は、意識の及ばぬところで、そうやって、

自分自身を責め立て苦しめて、自分自身をどんどん傷だらけにしていきます。」

 

確かに、人は自分を苦しめるのが好きだ。

人生にこれでもか!っていうくらいの不幸を引き寄せる。

 

「生きることへの罪悪感から、自分自身を不幸にしていくということは、

人に傷つけられるよりも、ずっとずっと悲しいことです。傷も深くなるんです。

そうやって、傷を負ったあなたの自我は、

自分を守るため、その傷の痛みを隠すため、どんどん鎧で武装していきます。

感情を隔離していき、その傷を見ないようにして自分を封印していくんです。

罪悪感も心の痛みも感じてしまうと苦しすぎて生きていけないから。

そうやって武装して、傷ついていないふりをして自分を強くみせて、

でもまた傷つきたくないから自分を守るため、何かを得るためにさらに戦う。

隠れた罪悪感は、自分の価値を地に落とすので、

自分が人より価値があることを一生懸命証明する必要も出てきます。

そのために、人間は人より多く手に入れ、人より結果を出し、

人と自分を比べて優越感を抱くことで自分の価値を確認しながら生きています。

みんな、負けるのが怖いんです。痛みを感じるのが怖いんです。

自分の罪悪感を感じるのが怖いんです。

自分には価値がないことを認めることになるから怖いんです。

負けたってあなたの価値は何一つ変わらないのに、負けられない人生をずっと送ろうとする。

それで人と戦い続けて、ボロボロになる・・・。」

「なんてことを・・・。」

 

私は、悲しくなって優しくそっと目の前の姑の傷に触れた。

 

結局、私たちは自分で自分を苦しめていたのだ。

社会と戦い、他人と戦い、自分と戦い、家族と戦い、運命と戦っていた。

でも私は、戦う生き方しか知らなかった。

親からも、学校でもそう習ったし、そうしないと世の中は厳しいから生きていけないと思っていたし、

それは、この時代の社会では常識だった。

きっと彼女はもっとそれが強かったのだろう。

そしてだれもが、今も毎日何かしらと戦いながら生きている。

「でも、戦わずに生きるって、無理でしょう?」

「無理じゃないですよ。今はもう、競争ではなく、共創の時代に入りました。

奪い合いではなく、分かち合いの時代に入ったのです。

でも、戦って勝ち取ることでしか生きて行くすべがない、って思っているならせめて、

この傷のことを知ってほしいんです。

この傷をちゃんと労ってほしい。

誰かに傷つけられたことだけじゃなくて、自分で自分にも傷をつけているんだっていうことを知ってほしい。

そして、そんな自分を責めるんじゃなくて、ただただ、その傷に触れてほしいんです。

意識を向けてほしいんです。

そうすれば、傷は癒されます。

傷が癒されれば、自分を守るために身につけてきたたくさんの鎧は軽くなり、

本来の人生をもっともっと身軽に生きて楽しめるようになるから。」

 

私は、触れている傷を撫でてみた。傷は深く、大きい。

他の傷にも、一つ一つ触れていった。

どの傷も、すごく・・・すごく、冷たかった。

 

そして、ある一つの大きな傷に触れた瞬間、突然、彼女のその痛みが伝わってきた。

私は、とっさに手を引っ込めた。

急に怖くなった私は、木から数歩、後ろへ下がった。

 

私は、彼女のその傷が、自分の傷とつながっていることを悟った。

その傷の痛みに触れるということは、私自身の痛みにも触れるということだった。

 

「人の痛みってね、繋がっているんです。

彼女の傷は、あなたの傷でもあり、彼女の痛みは、あなたの痛みでもあります。」

 

目の前の木が、うっすらと自分の木と重なった。

私の木は、あの二人の叔母と出会った場所に立っていた大きな木だった。

真っ直ぐに天に伸びた左右対称の木で、彼女の木とは全く異なる木だったけれど、

幹にあるいくつかの傷が、重なり合っていた。

どうやらその傷を私たちは共有しているらしい・・・。

 

「いやだ。死んでまで、痛みを感じて絶望するのは嫌だ。もう、苦しい思いはしたくない。」

 

それが、私の正直な気持ちだった。

もう、終わったことだからいいじゃない。

私の人生は幸せだったからいいじゃない。

彼女とのことも、もう終わったのだからいいじゃない。

彼女の木が傷だらけだったとしても、私の木が傷だらけだったとしても、

その私はもう、死んじゃったからいいじゃない。

また、どうせ生まれ変わるんでしょ?

だったら、もう、苦しい思いをしなくてもいいじゃない。

私は、この傷だらけの木たちを永遠に葬り去りたかった。

そうだ、供養だ。供養して、さっさと次に行こう。

そんな気持ちだった。

 

レイは、そんな私の様子を見て、悲しい目をした。

私の目をまっすぐにみて、目にいっぱい涙を溜めながら訴えた。

 

「もう、なかった事にしないでほしいんです。その傷を。

もう、これ以上傷つけないでいいように。

もう、生きることへの罪悪感なんていらないんだって、

そのままの自分で生きてていいんだよ、って、自分自身を許してほしいんです。

あなたと彼女には、それが必要でした。

人を傷つけたことも、戦い負けたことも、人に傷つけられたことも、

大切な人を守れなかったことも、大切なものを失ったことも、

何かを実現できなかったことも、欲しかったものを手に入れられなかったことも、

誰かの期待に応えられなかったことも、

醜い自分も、間違った自分も、できない自分も、

みんなと違う自分も、何もかも、許してやってほしいんです。

そうすれば、戦いが終わります。

そして、あなたと彼女の戦いも終わるから・・・。」

「自分を・・・許す・・・。」

 

そう口にして、痛々しい傷に触れた瞬間、あの時の痛みがぶわーと押し寄せてきた!

それは、息が出来ないほどの痛みだった。

その痛みの後には、胸を切り裂くような苦しみと、報われなかった怒りとが容赦なく襲ってきた。

 

私は、こんなに痛かったんだ、苦しかったんだ! 怒りでいっぱいだったんだ。この人も・・・。

 

涙が、次から次に溢れてきて、止まらなくなり、

いつの間にか私は、子どものように嗚咽しながら泣いていた。

葬り去ろうとした自分自身を目の前にして、

その痛みと苦しみを思い出し、報われなかった思いで泣きじゃくった。

 

もう、無かったことにはできなかった。

傷に閉じ込められていた、痛みも悲しみ怒りも全部を受け止めるしかなかった。

その痛みに泣き、悲しみに泣き、報われない思いに泣いた。

嵐のようにその想いが溢れてきて、止まらなかった。

そして、私はそうやって心の中にあった罪悪感を解き放っていった。

 

私は泣きながら気がづいた。なぜ、自分が戦い続けてきたのかを。

 

そうか。私は許せなかったんだ。

人に負けること、人に認めてもらえないこと、人より少ないこと、

人より劣っていること、人より貧乏なこと、人より不幸なこと・・・が許せなかったんだ。

それは、私はありのままではダメだ、価値がないと思っていたから。

認められなければ、人より優れていなければ、価値がないと思っていたから。

戦って勝たなければ、より多くのものを手に入れなければ、幸せになれないと思っていたから。

だから、負けることも、人に認められないことも許せなかった。

ずっと戦い続けてきたんだ。そうやって。

それでこんなに、自分を傷つけた。

そんな自分を葬り去ろうとしていた。

 

私は姑と戦っていたが、結局、彼女は私の中の認めたくない自分、

弱い自分だったり、できない自分だったり、負けた自分を映し出していただけで、

私は彼女と戦いながら、自分と戦っていたんだ。

きっと彼女もそうだったのだろう。

 

「そっか・・・彼女は、その憎まれ役を引き受けてくれたのか・・・」

私はやっと気づいた。

「あなたの憎しみを引き受けてくれた人は、結局あなた自身の鏡だったんです。

あなたが、自分を許せば戦いは終わる。

そうすれば、相手は、あなたの憎しみを引き受ける役割から解放されるんですよ。

そして、あなたも相手も癒される。

相手を許すんじゃなくて、自分を許すんですよ。

それで全ての戦いが終わるから。」

 

私はやっと、レイが言っていることを理解した。

 

私は、一つ一つ、傷に触れながら、嵐のように荒れ狂う

その木に閉じ込められた感情をひたすら感じながら、

ただただ、その感情と共に過ごすことしかできなかった。

 

メンタル・ライフコーチ 大津 真美

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長崎大学教育学部小学校教員養成課程(教育心理学専攻)卒業後、福岡県久留米市内の精神科病院にて心理士として一年半勤務。その後、セラピストとして10年活動しイン...

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