命の約束ープロローグ⑴

スピリットファースト

 

この物語を亡き母へ捧ぐ

プロローグ

2013年2月25日早朝

朝、私は、突然パッチリと目が覚めた。

あまりにパッと目が覚めたので、

「寝坊した!!」と思ってガバッとベッドから飛び起きてしまった。

時計を見たけれど、辺りが暗くて時間がわからない。

外はまだ真っ暗だ。

「大丈夫かな・・・。」

私は、手探りで携帯を探した。

携帯のアラームは、いつも5時50分にセットしている。

手にした携帯を確認してみると、どうやらまだアラームは鳴っていないようだ。

携帯は、ちょうど5時を表示していた。

いつもだったら二度寝するところを、私はあまりに目がパッチリ覚めてしまったので、珍しく二度寝せずに起きることにした。

寒さに凍えそうになりながら、愛犬を連れてリビングへ行き、暖房を入れ、携帯をダイニングテーブルに置くと、そのままキッチンでお湯を沸かしてコーヒーを入れた。

ソファーでコーヒーをすすりながら、せっかく早く起きたからブログでも書こうと思って、パソコンを開いてみた。

外はまだまだ暗い。

夫が起きてくるのは6時前だから時間はたっぷりある。

それまで一人の時間を楽しもうと思った。

愛犬まめたろうをなでながら、コーヒーを飲みつつブログを書く。

至福の時間だった。

いつもはまだベッドの中。

「早起きもいいもんだな」

そう思いながら、サクサクとブログを書き進め、そう長くしないうちに書き終えると、私は飲み残しの冷めたコーヒーをすすりながら、投稿する前にもう一度読み返す最終チェックに入った。

すると突然、そんな私の優雅な時間の終了を知らせるようにダイニングテーブルに置いていた携帯がブルブルと震え、朝の沈黙を破った。

「もう、そんな時間?」

思いのほか早い一人時間の終了にびっくりしてリビングの時計を見ると、時計はまだ朝の5時半を指している。アラームがなるには早すぎる時間だ。こんな時間に電話がかかってくるはずもないし、アラームでないならメールかな?

しかし、携帯はブルブルと震え続けメールではなく電話だということをしつこく主張していた。

「誰からだろう? こんな時間に・・・」

電話だとわかった瞬間、私は一気に不安な気持ちになった。

こんな時間にかかってくる電話なんて、誰からの電話であってもただ事ではない。

恐る恐るテーブルに置いていた携帯を取りにいき覗くと、携帯の画面には実家にいる妹の名前が表示されていた。

「こんな時間に妹から?いったい何事だろう? 」

私の胸は、急にドキドキし始めた。

なんだか悪い予感がする。

恐る恐る電話に出ると、妹が大きな声で泣きじゃくりながら何かを訴えてきたが、全く聞き取れない。

私の胸は一層強く鳴り響いたが、妹のただならぬ様子につられて取り乱さないよう、大きくゆっくりと深呼吸した。

泣きじゃくる妹は、気が動転しているようで何をどう伝えていいのかわからないようだった。

とにかく、泣いていて言葉をよく聞き取ることができず、私は、最初妹が失恋でもしたんだろうか・・・と思った。

しかし、そんなことで、こんな朝早くに電話をかけてくるのもおかしい。

私は、もう一度大きく深呼吸して、自分を落ち着かせた。

そして、もう一度妹の言葉に集中してみると、やっと聞き取れた妹の言葉は、信じられない言葉で、私はそのまま凍りついた。

 

「お母さんが、布団の中で冷たくなってる!!!!」

「は???? どういうこと??」

「息もしてないし、動かないし、もう冷たくなってる。多分、ダメだと思う。今、救急車呼んでるから、どこの病院へ連れて行くのかがわかったらまた連絡するね。」

 

妹は、泣きじゃくりながら、それだけ言って電話を切った。

妹の動揺とは対照的にシーンと静まり返る早朝のリビングに、私は何が起きているのか分からず一人取り残されてしまった。

通話の切れた携帯を耳に当てたまま、私はしばらく動けずそこにただぼーっと立ち尽くし、頭の中に次から次に浮かんでくる答えも分からない疑問をどうすることもできずにいた。

どういうこと?

お母さんが、冷たくなってる?

死んじゃってるってこと?

でも、昨日まで元気だったじゃん・・・。

 

そう、昨日は地元の音楽会があって、私は地元のコーラス部の一員として舞台に立っていた。

母は、それを見にきてくれていて、途中衣装を早着替えするのを手伝うために楽屋に来てくれたが、いつも通り変わった様子はなかった・・・。

いや、そういえば楽屋に入ってきた時、ちょっとキツそうに手すりを持って歩いていたっけ・・・。

ちょっとした階段が辛そうで、大丈夫?と声をかけたのは覚えている。

「大丈夫」

母はそれだけ答えて、手すりを持ってゆっくり階段を登ってきた。

私はその時、持病の股関節が痛いのかな・・・としか思わずに、母に詳しく体調を確認しなかった。

 

「どこか具合悪いの?」

 

なぜ、あの時、一言確認しなかったのだろう・・・。

声をかけて確認していれば、音楽会が終わってからでも母を病院に連れて行くこともできたんじゃないか。

でも、母は、その後は具合が悪そうなそぶりを見せず、最後まで音楽会を楽しんでくれて、終わった後には電話までしてくれた。

 

「歌、よかったよ。みんな上手だったね、って言ってくれてたよ。」

 

と、電話の向こうから母は、誰かに娘を褒めてもらえた喜びを隠すことなく、嬉しそうに私に感想を伝えてくれた。

思えば、それが最後に交わした言葉だ。

なのに、母にこうして褒められるのは、あまりないことだったから私はすごく照れくさくて

「ありがとう」

としか言えず、夕飯の誘いも断って、早々に自宅へと帰ったのだ。

コーラスのステージに立っている間に、母が調子悪そうだったこともすっかり忘れてしまっていた。

あの時、命に関わるほど辛かったのだろうか・・・。

母はそこまで苦しそうには見えなかったが、でも心の奥から後悔の気持ちが湧いてきて、怖くなった。

 

「私が、ちゃんと気づいていればよかったんじゃないか・・・」

 

何度も何度も、その疑問が頭の中を周り、でももうどうすることもできなくて、とうとう私の頭は、思考を放棄して真っ白になった。

真っ白になった頭でようやく考えられたのは、

「病院に行くために身支度をしなきゃ」

ということだった。

 

私は、思考停止状態のまま身支度した。

身支度が終わっても、まだ父からも妹からも電話がかかってこない。

搬送先がわからなければ、身動きが取れない私は、平常心を取り戻すためにいつもどおり愛犬を散歩に連れて行くことにした。

いつも通りに散歩をしながら、何度も何度も、妹の言葉を思い出し母の状況を考えてみたけれど、どうしても母がすでに死んでいるとは思えず、帰ってくる頃には、全て夢なんじゃないかとさえ思えてきた。

だから、涙なんて出やしない。

やっぱり、妹の電話で聞いただけでは、現実を理解し飲み込むのは無理だった。

散歩から家へ戻り、父や妹からの電話をずっと待っていたけれど、待てど暮らせどかかってこない。

痺れを切らして父の携帯に電話すると父は救急車の中だった。

けたたましいサイレンの音が耳につく。

その音に私の胸は、ギュッと締め付けられた。

母は、救急車の中でずっと心臓マッサージをしてもらっている状態だった。

父に搬送される病院を確認すると、ここから車で15分のすぐ近くの病院だという。

電話を切った私はすぐに家を飛び出した。もしかしたら、私の方が早く着くかもしれない。

 

「きっと、大丈夫だ。何かの間違いだ。

昨日は歌の発表会を見に来てくれて、ドレスに着替えるのを手伝ってくれたじゃない。

歌だって褒めてくれたじゃない。

病気だって何もなかったし、突然死んじゃうなんてことがあるはずがない。」

 

私は、車を走らせながら一生懸命、そう自分に言い聞かせた。

病院は、家からたった15分ほどのところなのに、病院までの道のりが永遠に続くような気がした。

電話の中で鳴り響いていた救急車のサイレンが、耳の奥でけたたましく鳴り続ける。

そして、また胸がぎゅっと締め付けられた。

 

すると急に涙がこみ上げてきた。耳に残った救急車のサイレンの音が、母の死をリアルにしてしまったのだ。

だけど、私はそのこみ上げてきた涙をぐっと堪えた。母と会うまでは、絶対認めない。泣いたら認めたことになる。

一生懸命涙をこらえながら、私は病院に向かった。

 

次のお話

メンタル・ライフコーチ 大津 真美

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長崎大学教育学部小学校教員養成課程(教育心理学専攻)卒業後、福岡県久留米市内の精神科病院にて心理士として一年半勤務。その後、セラピストとして10年活動しイン...

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