プロローグ (1) (2)

第一章 人生の終わり
(1)2013年2月25日 早朝
(2)夢の中で・・・
(3)朝起きると死んでいました。
(4)死神?
(5)死んでも死なない?
(6)葬式の日
(7)生まれ変わっても一緒になりましょう

第二章 本当の終活
(1)神様って本当にいるの?
(2)運命の地図
3)生まれる前に決めてきたこと
(4)運命の地図が教えてくれること
(5)自分の最期を選択する
(6)地図を移行するチャンス
(7)愛の奇跡

第三章 戦いの終わり

1 憎しみを引き受けてくれた人

「はい。着きましたよ。」

レイの声でゆっくりと目を開けると、そこは病室だった。

目の前では一人の年老いた女性が、唸り声をあげながら息も荒々しく苦しそうにしている。

やせ細った顔を見て驚いた。それは、姑だった。

 

「あなたが死んで、6年後の2019年です。

あなたがずっと戦ってきた人の人生が今、終わろうとしています。」

 レイは静かに言った。

目の前で苦しむ姑を見て、私の中には、いろんな記憶が蘇ってきた。

 

この人生の半分以上の時間、私はこの人と戦ってきた。

夫も、娘も誰もわかってくれなかったが、これは嫁姑の問題ではなかった。

この人は、いつも私をイラつかせ私のペースを乱すのだ。

他の家族には見せない、意地悪で頑固な顔を私にだけ見せるのだ。

確実に私は彼女に嫌われていた。同居は本当に辛いものだった。

それでも、この人は主人を生んでくれた人だ。

私は耐えるしかなかった。

苦しかった。すごく苦しかった。

そう思っちゃいけないって、自分に言い聞かせていたけれど、

間違いなくこの人生で憎んだ人の一人だった。

 

「私、この人を憎んでた。ずっとずっと、この人と戦ってきたから。

された事、言われた事、全部忘れられない。

この人を愛することは難しいよ。」

 

それが、正直な気持ちだった。

昔のことが蘇ってきて胸がぎゅっと締め付けられる。

できればもう、この場を去りたかった。

 

「なぜ・・・なぜ彼女は、あなたをそんなにも苦しめたのでしょうか。」

「そんなの、私が嫌いだったからでしょう?

私の何もかもが気に食わなかったのよ。

息子を取られたと思っていたのかもしれないし、

私が主導権を握ろうとしたからかもしれないし、それはわからないけど」

「彼女も、あなたのことを憎んでいたのでしょうか。」

「憎んでいたんじゃないかしら。

お互いがお互いの嫌なところしか見えなかったと思うし、

彼女は、私に全くもって、聞く耳を持たなかったから。」

 

これまでの怒りがふつふつと蘇ってきてイライラしてきたが、

目の前で苦しそうに呻く彼女を見ると、ちょっとだけ心が痛んだ。

彼女は、なぜあんなに頑なだったのだろう。

よくしてもらっていた時期もあったのに、どこでボタンを掛け違えてしまったのだろう?

 

そういえば、一緒に暮らしていたのに、

彼女が何が好きで、何を愛していて、何が喜びで、何が幸せなのか、聞いたこともなかったな。

本人も考えたこともなかったかもしれない。

私だって、そんなこと考える余裕なんてなくて、

一生懸命仕事をし、一生懸命子育てをし、一生懸命家事をした。

それでも、自由に友人と出かけ、好きなカラオケを歌い、

私は私で自由に楽しい時間を過ごさせてもらった。

彼女にとっての楽しい時間は、あったのだろうか?

 

彼女にとっての幸せな時間は、彼女の人生の中にちゃんとあったのだろうか?

そんな時間がなかったから、私にだけ辛く当たったのだろうか?

私は、苦しそうな彼女をしばらく見つめていた。

彼女は、苦しみながらも生きようと必死だった。

まるで、まだ死ぬもんか!って言っているようだ。

 

目の前に横たわるそんな一人の女性の存在について、

私は、実は何も知らないし、何も理解していなかったことを理解した。

私は、この人が何を見て、何を信じ、何を感じて、どんな思いで、この人生を生きてきたのか知らなかった。

彼女が何をどう見ていたのか、ちゃんと話を聞くということもなかったから。

お互いに・・・。

私もよく、誰も私の気持ちをわかってくれない!っていじけていたが、

彼女ももしかしたら、そう思っていたのかもしれない。

 

「私、彼女を憎たらしく思っていたけど、

彼女の全てを知っているわけではなかった。

なのに、全てが憎たらしかったの。」

「でも、あなたは、この人と出会う人生を選んだ。

あなたは言いましたよね?あの時。

この人生で出会った誰一人として逃したくないくらいに、みんな愛おしい、って。

その中に、彼女も入っているんじゃないですか?

あなたは、彼女と出会う人生を選び、彼女もあなたと出会う人生を選んだ。

しかも、簡単には切れない縁を選んだんですよね。

お互いがお互いの憎しみを引き受けたんです。

それぞれ傷つきながら。

もし、彼女がいなかったら、あなたの人生は、どうなっていたんでしょうか?

楽で楽しいものになっていたんでしょうか?」

 

私は、レイの言葉の意味をよく考えてみた。

もし、私の人生に彼女がいなかったら、毎日清々しく暮らしていられただろう。

もっと夫とも喧嘩をせずに過ごせただろう。

でも、もし彼女がいなかったら、

私は、嫁姑の問題で悩んでいる友人の相談には乗れなかっただろう。

実家の弟嫁にも気を配れず、辛い思いをさせていたかもしれない。

私は自分の性格を思い出した。

私は、自分のやり方や自分の考えで相手を見てイライラしたり、

相手を自分の正しさで説き伏せて、納得させようと戦うくせがあった。

彼女ともそれで険悪になっていたのだが、

もし彼女がいなければ、私はその戦いを他の人とやっていただろう。

職場とか、近所の人とか、友人とか夫や娘たちと・・・。

まあ、夫や娘たちともやり合いはしたが、彼女のおかげで、

私は、相手をコントロールできないことを思い知り、それは、家族や友人に反映された。

 

「彼女のことを、少しだけ知ってほしいんです。たった、それだけでいい。」

レイは、私にそう言ってきた。

「彼女のことを知る? どうやって?」

「これから、あるところにあなたを連れて行きます。ただ、黙ってついてきてほしいんです。」

 

私は、ためらった。

もう、終わったことだからいいじゃないか、そう思ったのだけれど、

もし、彼女が私の憎しみを引き受けてくれた人なのだとしたら、

彼女について知る必要があるのではないかとも思えた。

 

気は進まなかったが、私はレイについて行くことに決めた。

「わかった。行ってみる。」

そう言って私はゴクリと唾を飲み込み、拳をギュッと握って目を閉じた。